シリコンバレー進出。あなたの会社は大丈夫?日本企業の陥りやすい機能不全。

ビジネス,社会アメリカ,シリコンバレー,ビジネス,ベイエリア

まず、シリコンバレーとは何処?

シリコンバレー (Silicon Valley) という特定の地名はありません。アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコ南東からサンノゼを結ぶ地域とその周辺の通称です。近年はサンフランシスコ・ベイを挟んで東側にも新興企業の拠点が多数生まれているため、その「シリコンバレー」が指すエリアは拡大していると言えるでしょう。

名称の由来は多数の半導体メーカーが集まっていたことに由来しますが、現在は半導体メーカーだけに限らず、Apple,Google,Facebookに代表されるインターネット関連企業やITサービス企業が集まっています。その他、グローバルに展開されているサービスや製品の発信地という側面もあります。世界中から若手起業家やベンチャーキャピタルが集まり、産業創出の独自生態系を形成しています。

また、前述した通り、現在はサンフランシスコベイ西岸(ペニンシュラ)だけではなくその商圏は広範囲に及んでいます。そのためこの地域を表す言葉としては「シリコンバレー」よりも「ベイエリア」が一般的です。そのため以下、「ベイエリア」で統一します。

 

2018年ベイエリア進出日系企業は913社で過去最高

ジェトロによる「ベイエリア(北カリフォルニア)日系企業実態調査2018年(2018年8月)」によると2018年ベイエリア進出日系企業は913社。これは前回調査の企業数770社を上回り、過去最高です。
また、直近の2年間(2016年から2017年の間)に進出してきた企業は42社。

調査データが示す通り、ベイエリアの景気は良好であり、日本企業もそのマーケットの魅力に惹かれて、ベイエリアに我先にと進出してきています。

 

日系企業の陥りやすい機能不全

まず、日本企業の経営状況は決して悪くありません。前述したジェトロの調査によると2017年、黒字の日系企業は6割を超えると言われています。しかしそこは修羅の国、ベイエリア。当初の予定通りはいかないケースが多いようです。

個人的には「ウジウジ考えず、とりあえずベイエリアに進出して経験を積む」という考えは嫌いではありません。高い授業料を払うかもしれませんが得るものも大きいと思います。しかし、事前に知ることのできる情報は知っておいて損はありません。ここでは実際に進出した日系企業が陥りやすい状況をご紹介します。

 

機能不全その1.何も知らずカモられる。

実際に私の周りでもよく聞く話です。これは資金に比較的余裕がある企業がよく陥るワナと言ってよいでしょう。パターンには以下のようにいくつかあります。

  • イベント会社等が主催するベイエリア企業マッチングツアーで事業の説明を受け、最終的に出資させられる。
  • 取引先の会社から新興企業への出資を勧められる。
  • つまらないソフトウェア/サービスの日本での販売代理店を請け負う。独占販売契約を締結してしまう。

これは日系企業側の担当者に十分な判断能力がない場合に発生します。この場合、日系企業は紙切れ同然の株を買わされたり、売れないソフトウェアを日本で宣伝することになります。

 

機能不全その2.給与が高すぎて優秀な人が雇えない。

この問題もよく知られています。ベイエリアは明らかにバブルの様相を呈しています。平均賃金は全米No1.です。前述したジェトロの資料では平均賃金は7万7千ドルと言われていますが、これは実際のリクルーティングの現状を表していません。2018年現在、IT関連の職種で優秀な人材を雇用するためには最低20万ドル程度は必要です。特殊技能を持つエキスパートや幹部クラスを引き抜くためにはさらに一つ上の桁が必要となってきます。

ここでの問題は日系企業の社員の給与はこのような水準ではないということです。会社として日本国内で働く社員には一般的な水準の給与を支払い、ベイエリアでの現地採用の社員にはその5倍も10倍も給与を支払うことができるでしょうか。

 

機能不全その3.ベイエリアにパートナーがいない。

ベイエリアは多種多様な考え方や文化が認められる、とてもオープンな環境ですが、ビジネスではある意味とてもクローズドな環境です。現地スタートアップ企業の多くはすでに独自の横のコネクションを持っています。右も左も知らないベイエリアに取引先も何もない状況で進出しても情報は入ってきません。待っていてもビジネスは拡大せず、現状維持という会社が多く見られます。本当にビジネスを展開する気があるのであれば早い段階で信頼できるパートナーを見つけておくべきだと思います。

 

機能不全その4.英語が話せない。

当たり前のようで非常に重要です。ベイエリアでビジネスを発展させるためには英語を話すことは必須です。あなたがずっとお金を払う立場であれば周りの人は頑張ってあなたの日本語も訊いてくれるかもしれません(カモるために)。しかしながら対等にビジネスをしていくのであれば英語は必須です。日々のビジネスのためだけではなく、ミートアップやカンファレンスを通じてコネクションを広げるためにも英語は重要です。英語を日々勉強する必要がありますし、不十分であれば英語が話せる人を登用する必要があります。

 

機能不全その5.世界相手にビジネスがそもそもできない。

残念ながらこの状況に陥っている日系企業が多く見られます。日系企業に海外の企業とビジネスができる優秀な人やノウハウがないことが原因です。ではこれらの日系企業はベイエリアに進出したのち、どこでビジネスをしているのでしょうか?そう、同じようにアメリカに進出した他の日系企業を相手にビジネスをしているのです。日系企業同士で仕事を請け負い、情報交換する。仕事の進め方も日本流。これではいつまでたっても世界相手にビジネスできませんよね。

 

機能不全その6.海外赴任がただのご褒美。

これは最初から意図していたわけではなく、結果としてこうなっているケース。基本的にベイエリアに赴任してくる日系企業の社員の方々は30代ぐらいまでの若手であれば日本ではエース級の人ばかり。大企業といえど「どうでもよい社員」に大金を出す余裕はなく、エース社員を選んで送り込んでくるわけです。いわゆる駐在です。しかしながら、この駐在が曲者。いずれ日本に帰って別の部署で働くため、ビジネスを長期的に発展させようとは思わないのです。また、大きな権限も与えられていません。これでは地元、ベイエリアでスタートアップを何とかものにしようと寝る間を惜しんで取り組んでいるツワモノとは勝負になりません。素早いビジネス上の決断ができない人とは大事な商談もしてくれないでしょう。

多くのケースでは若手社員は自分のキャリアを最優先に考え行動し、幹部クラスでは日本の本社向けの、みせかけの実績づくりに励みます。

 

機能不全その7.ビジネスの拡大ビジョンがない。

上記1-6をクリアした日系企業が陥る状況です。十分な人材の確保もでき、コネ、ノウハウがあり当面のビジネスも確立した。しかし、ここからビジネスを拡大するビジョンが描けないという状況です。日本で成功体験のあるビジネスモデルや仕事の進め方を同じようにベイエリア(海外のビジネス)に持ち込んだがうまく拡大しないといった場合が当てはまります。現場では頑張っているのですが、本社の期待には応えられず、高い人件費のため少しずつ資金を溶かしていくことになります。最近ではDeNAのベイエリアからの撤退や、メルカリの英国からの撤退がこれに当てはまります。

この原因の多くはトップの能力/経験不足です。ベイエリアで新しくビジネスを展開していくにはこのトップにかかっていると言ってもよいでしょう。

 

最後に、じゃあ何がうまくいきやすい?

お世辞にも海外ビジネスがうまいとは言えない日系企業、ベイエリアに進出している日系企業はどのような分野で成功をおさめているのでしょうか。

まず挙げられるのが、「研究開発」です。研究開発では日系企業が苦手なお金儲けはあまり考えなくてよい分野です。お金を使い最先端のテクノロジーを開発することに主眼が置かれています。資本力のある日本企業は大学や他企業との提携という形で時間をかけず優秀な頭脳を得ることができます。